理解を深めるために、国際金融のトリレンマと呼ばれるものを説明したい。これは国際金融において①固定相場制、②資本移動の自由、③金融政策の独立性、の3つを同時に満たすことは出来ないというものだ。例えばアメリカや日本は②と③を採っており、①の固定相場制を放棄している。欧州連合EUは①と②を採って、③の金融政策の独立性を放棄しているので、例えばドイツとイタリアの景気度合いが違っても、ドイツ用の金利やイタリア用の金利とすることが出来ず、双方にとって最適の状況は達成出来ない。
この国際金融のトリレンマから考えると、中国の人民元は①と③を採用していて②の資本移動の自由を放棄している。一方で香港ドルは①と②を採用していて、③の金融政策の独立性を放棄している。だから香港はアメリカの金融政策の影響をモロに受けることになる。しかし人民元は全く影響を受けないのだ。
ここの認識がないと、「アメリカの利上げで中国が大変なことになっている!」というニセ経済学に騙されてしまう。
1997年のアジア通貨危機はタイが国際金融のトリレンマを無視した政策をとった為に発生したが、その時もタイ、マレーシア、韓国、それに香港は非常に大きな影響を受けたが、中国は全く大丈夫だった。
通貨危機発生後マレーシアにおいては、当時のマハティール首相が危機の時に資本移動の自由を禁止した。この行為は当時多くの国から批判を受けたが、結局は最善の方法で、マレーシアの被害は少なくて済んだ。IMFの管理下に置かれて国内経済がボロボロになったタイや韓国とは全く違う。マハティール首相の国際金融のトリレンマを理解した英断だった。