人は感情の生き物だ。そして経済も人の感情で左右される。経済学は当初、人間は合理的な生き物であることを前提としてきた。しかし長年の観察の結果、人間は「予想通りに非合理」な生き物であることが判明してきた。それを解明してきたのが行動経済学で「予想通りに非合理」というのは、ダン・アリエリーという行動経済学の第一人者の言葉で、人間の感情反応を考えると、その選択は論理的には非合理だけど、人間はきっとその非合理な行動を取るであろうと、行動経済学的には判断できるので「予想通りに非合理」となる。

その感情的な非合理選択だけでなく、ミクロ的に合理的な行動を皆んながとった結果、マクロ的には非合理な結果になることもある。例えば「合理的期待(予測)形成」と呼ばれる現象で、将来的にデフレが来ると思い貨幣を貯め込む個人レベル(ミクロ的)では合理的な行動が、デフレを自己実現し、マクロ的には非合理な結果を招くことなどだ。

だから経済学には、数学や物理学などと違い、絶対にこうなるという鉄板の回答が無い。人間の心理や行動は非常に複雑で不可解だからだ。その中でも非常に悪影響が大きいと思うのは、人は「損失」を「利得」の2〜2.5倍重く感じるという心理的な事象で、これは「損失回避バイアス」と呼ばれる。例えば1万円を失くすのと、1万円を拾うのでは、1万円を失くす痛みの方が、1万円を拾う喜びの2〜2.5倍あるということだ。これは人間の数万年の歴史の中で本能に刻み込まれたシステムなので、それを回避することは非常に困難だ。そして、この為に大きな問題が発生する。