今までのアメリカは、グローバリゼーションの恩恵を受けてアメリカ全体としては確実に豊かになってきた。ただ、その恩恵は多くの人々が広く薄く受けているので、本当に素晴らしいことであるのに、個人感情としては有り難みがいまいちピンと来ていない。しかし一部の人、例えば自動車産業などに従事している人は、グローバリゼーション結果、職を失う事があり、その痛みは非常に大きい。
全体としては明らかにグローバリゼーションの恩恵が大きく国民が豊かになっているが、利得を得ている多くの国民はこの豊かさが普通のことと思い込んでしまう。一方で少数の痛みを伴う人々の反感は非常に激烈で「なぜ俺が職を失わなければならないのか!」と、グローバリゼーションに怒りをぶつける。人間の怒りのエネルギーは非常に高く、過激な行動を伴い、メディアにも取り上げられ易く、結果として社会を動かす力を持つことになる。そこにトランプなどの政治家が付け入るスキが生まれてしまう。予想通りに非合理だ。
日本でもTPPなどの自由貿易協定を推進しようとするとこのような問題が起こる。自由貿易を行った結果全体で10兆円の利益があり、損失は8兆円だとすると、全体で2兆円の利益なので推進した方が良い。しかし利得者の数は1億人で、損失者の数は200万人であり、一人当たりの利益は10万円で、損失は400万円となる。しかも損失は損失回避バイアスが働き、痛みは800万円から1000万円となる。この場合、利得者は自由貿易賛成の声を上げないが、損失者は猛烈に反対の声を上げることになる。
予想通りに非合理ではあるが、社会はこのように動き、そこに政治家が介入することになる。