少し簡単に基礎的な「壁」についても考えてみたい。
まず第一点として、壁には「税の壁(=発生)」、「社会保障の壁(=加入)」の2種類が存在する。話題の「103万円の壁」は税の壁の方だ。
税金と社会保障だけでも十分複雑だが、これを更に複雑にしているのが第二点の「扶養控除」だ。扶養控除の有無で、税額や社会保障費が大きく変化してくる。
そして第三点は、「壁」には、壁を超えると①収入の増加割合が減る壁(=増加分のみに課税)、②収入自体が減る壁(=優遇が消え税額が増える)、の2種類がある。②の壁は1円でも超えると急に収入自体が減り「働き損」になるので、影響はかなり大きい。
整理すると、「税金の発生」、「社会保障の加入」、「控除の有無」という3つの問題があり、壁の種類は①と②がある…ということだ。
今回の103万円の壁は、例えば「夫(年収600万円)と妻と大学生の子供の三人家庭で、妻と子供が夫の扶養に入っている。」とする。妻がパートに出て収入が103万円を超えると、超えた分に所得税が発生する。例えば1万円超えたら5%の500円が所得税となる。これは①収入の増加割合が減るタイプだ。一方で子供がアルバイトで収入が103万円を超えたら、子供に同様に所得税が発生するのと、夫の子供に対する扶養控除(63万円)が消失し、夫の税負担が約10万円増えることになる。これは②収入自体が減るタイプで、家計への影響が大きい。だから今回の「103万円の壁」は、①と②が合わさったタイプの壁だ。
ただ一番大きな壁と言われているのは「130万円の壁」(従業員数が51人以上の会社でパートする場合は「106万円の壁」)で、これは妻が社会保障に加入する必要が発生するので、②収入自体が減るタイプで、しかも約30万円減(厚生年金の場合、会社が半額負担)と大きな収入減なので「働き損になる大きな壁」となっている…
十分複雑だが、これはほんの一部に過ぎない。この複雑怪奇な魔宮を、本当に理解している人がどれくらいいるのだろう?