現在の米国は過去最悪の麻薬危機に直面している。麻薬の過剰摂取で死亡する事案が相次ぎ、2022年にはその数は年間11万人!を超えた。
「泥沼」と言われたベトナム戦争ですら死者数は20年間で5万8000人しかいないのに。麻薬は1年間で、その20年間の倍の死者を出している。そして死者の約7割は合成麻薬「フェンタニル」の過剰摂取によるものだ。
フェンタニルは元々、1968年に米食品医薬品局(FDA)が承認した医薬品で、手術用の麻酔や集中治療時の鎮痛剤に使われてきた。この薬は、同じ鎮痛剤のモルヒネの100倍、ヘロインの50倍も効き目が強い。
死者が急増する最大の原因は、出回っている錠剤の6割近くに致死量を超す量のフェンタニルが混入されているからだ。麻薬は、純度100%のものなどなく、価格を抑えたり、利益率を上げたりするため普通は混ぜ物をする。フェンタニルは、安くて効き目も強く、混ぜ物に使うにはうってつけだ。
米国の専門家は「常習者は自分の適量を知り摂取する。だが、強力なフェンタニルが混ざっていることを知らなければ、計算を間違えて過剰摂取し、死亡してしまう」と指摘している。
フェンタニルは、化学物質で作る人工品のため、安価に製造できる特徴がある。この特性に北米市場を牛耳るメキシコの2大麻薬マフィアが目をつけた。2014年ごろから原料を中国から調達、麻薬に仕上げ、米国への密輸を始めた。原価は1錠当たり1セント(約1円50銭)に満たないが、米国では1錠10ドルから30ドルで売れる。利益率は200〜600倍!にもなる。原料が中国製造ということがあり「第2のアヘン戦争」とも言われており、米中関係悪化の要因にもなっている。
メキシコの麻薬カルテルはあまりにも巨大だ。軍隊を動員した取締りが行われているが、まだまだ勢力は衰えない。メキシコでは2024年6月、初の女性大統領クラウディア・シェインバウムが就任したが、どこまで治安を回復できるか…