アメリカの製造業は確かに衰退している。だがそれは世界的な分業の結果だ。アメリカは金融やIT、AIに特化することで生産性を上げ、非常に豊かになった。そして製造業は中国やベトネムへと移っていき、それらの国々も分業することで発展してきた。
何でも自国で自給自足などできない。世界がここまで豊かになったのは、経済学の父であるアダム・スミスが言った通り「分業と交易」による恩恵だ。そしてマルコム・マクリーンが発明したコンテナ船の就航が、輸送費を劇的に減らすことで、机上の空論と思われていたリカードの「比較優位論」を現実のものとし、グローバリゼーションによる世界の繁栄をもたらした。
トランプは今回の関税をかけることで「製造業」をアメリカに戻したいと考えている。しかし、そんなことは「おとぎ話」で、絶対にできない。トランプの報道官は「iPhoneをアメリカで製造しようと考えているのか?」との記者の質問に、「その通りだ」と答えた。本当に眩暈がする…
ある専門家は、iPhoneをアメリカで製造するためには、工場を作り、人雇い、サプライチェーンを構築する必要がある。時間的には5年は必要だし、投資や人件費を考えると現在15万円のiPhoneが50万円になると試算していた。
一方でiPhoneの実際の製造担当者は、50万円でも100万円でも絶対に出来ないと言っていた。彼が上げた出来ない理由は幾つもあるが、中でも面白かったのは、実は「iPhoneの製造は季節労働」という点だ。iPhoneの工場は1年中稼働しているわけではない。毎年夏にiPhoneの新機種が発表になって、アメリカのクリスマスまでに、大量(数十万人規模)の季節労働者で一斉に製造するらしい。そんなことはアメリカでは不可能だ。中国だから可能になっている仕組みで、確かにアメリカではいくら金を出しても実現できない。
